その七 特別の日



「長らくのご無沙汰、どうもらっぱ亭とおるです。」
「ほんと、さびしかったわね、とおるちゃん!」
「キャラかわっとるがな。だいたい、関西方面でしか解らへんし。まあええ、今日は特別な一日の特集や。ラファティはん結構このネタ好きみたいやな。カレンダーにはない特別の日や季節があって、なんかのきっかけでそっちの世界へ行ってまうってわけや。」
「ははあ、サラダ記念日みたいなもんやな。」
「全然ちゃうわい」
「そやけど、あれかてカレンダーにのってへんし、前から何時かいなって気になっとったんや。」
「あのなあ。」
「あとは、イルカの日とか、魚が出てきた日とか、復活の日なんてのもカレンダーのってへんなあ。」
「もうええわいっ。まずは草の日々、藁の日々や。」
「なんや、明るい農村みたいやな。」
「いやいや、ラファティはんによると、この世界には誰も直には思い出せへん時期があるんや。それは数分間から数時間みたいに短いもんから、時には何年にもわたることもあって、どれもカレンダーにはのってへんし、計算上の暦からもこぼれ落ちてまうんや。例えば、春夏秋冬の四季以外にも一年のどこにはまりこむんやら解らへん季節があって、確かにその時期を過ごす人びとはおるんやけど、記憶や記録から消え失せてまうんやな。青鴨の秋やら、インディアンの夏やら、アレイカ日やら。」
「ポーリーンの夏やら、北京の秋なんてのもあったなあ。」
「ちゃうがな。例えば草の日々っちゅうのは、インディアンが神はんから勝ち取ってくる計算外の一日やな。この日は豊かで野卑な生命にたぎり、歓びと死に満ち溢れ、恍惚と血に泡だっとるんや。大都会のど真ん中がぼうぼうの草の海になり、男どもはバッファローと取っ組み合って血塗れになり、山の上からはレスラーたちの首や手足がごろごろ転がってきて、みんなそれ見て笑いながら犬の焼き肉とチョック・ビールで大宴会って寸法や。」
「なんか、Space Chanteyの巨人の星ラモスみたいやなあ。わてはもっと平和な日がええわ。草餅の日々、わらび餅の日々とか。」
「あるかいっ。こんな計算外の日々が何年にもわたってあったっちゅう話が、研究所シリーズのFlaming Ducks and Giant Breadやな。グレゴリー所長は天文学上の細かい計算から、何年かの記録されなかった年があったことをつきとめて、調べだしたんや。」
「あの所長はん、そんなことばっかりやっとんやな。消えてもた町の名前探したり、宇宙人が持ってった土地つきとめたり。失せもん屋やった方が儲かるんやないか。」
「ほっといたれや。それでな、みつかったんが紀元1313年から数年にわたって世界の都ローマが両性具有の女皇ジョーンに統治されとったことが解ったんや。この間、ローマは愛の都アモールやった。」
「アモールゆうたら、ウルトラQで由利子ちゃん追いかけまわしたストーカー宇宙人かいな。」
「そら、ケムールやろが。」
「ケムールゆうたら、暑中見舞いの季節なってきたなあ。」
「そら、かもめーるや。あたしが言うとるんはアモール、エロスのラテン語名で、愛を意味する都の名前や。そこではふんだんなご馳走と、あらゆる麻薬と、奔放な性愛に溢れかえっていたんやな。」
「うわあうわあ、何でそんなパラダイスが消え失せてしもうたんかいな。」
「まあ、際限ない自由は、いずれ不自由と同じ袋小路に至るってこっちゃなあ。この話読んでみたかったらメールしてみたらええわ。」
「いやあ、そやけど、いつもと違う特別の日に紛れ込むっちゅうんも愉しそうやなあ。わてもこないだの晩に夢みたいなパラダイスに迷い込んで一晩中騒いどったみたいなんやけど、朝なってみたら記憶がはっきりせんのや。財布もすっからかんやったしなあ。」
「そら、ちょっとちゃうんとちゃうかい。」



メニューへ