その八 宇宙舟歌(3)



「はい、どうも。らっぱ亭とおるです。」
「ているです。」
「さて、今回は宇宙舟歌の三回目や。いろいろあって、一行は海の魔女サイレンたちの棲む惑星サイレネカへとやってきた。海中からそびえ立つ歌う山の謎を解こうってわけや。」
「踊る山やったら、高見山っちゅうんがおったなあ。歌も唄うとったし。まあ、最近やったらKONISHIKIかいな。」
「何言うとるんや。この山は近づく人びとの命を奪うらしいんやけど、はっきりしたことは解らへん。そこで、とりあえず一行の中で一番の能なしを山に登らせてみた。」
「亀有公園前派出所の寺井はんみたいなキャラやな。」
「どんな例えや。まあ、名前からして"Nonvalevole"って、役立たず(Non-valuable)のもじりやな。さて、山のあちこちには別嬪さんのサイレンたちが腰掛けて、手招きしながら歌うとるわけや。いそいそと登っていくと、山自体がうねうねと動き出した。実は、山みたいなひとつの生命体で、サイレンたちはその触手って寸法やった。そんなことには気付けへんと、手近なサイレンの姉ちゃんの膝に坐ってでれっとしたとたん、稲妻に撃たれて灰になってもうたんや。下で見とった一行は、えらい効率ええ電気椅子やなあって感心しとる。」
「ラムちゃんの電撃どころでないなあ。」
「一行の科学者ブランブルは、一万二千アンペア、九百万ボルトなんて冷静に分析して、ほな、次に役立たずな奴だれや、データ採るから電線つけて登ってみいって言うんや。それで、"Stumble"って"へま"っちゅう意味の名前やな、こいつがいやいや登っていった。」
「名前からして、一発もんのキャラやなあ。どうなったんや。」
「やっぱり、灰になったなあ。まあ、姉ちゃんに抱きついてキスまでは漕ぎつけた後やったが。」
「暴力バーよりたち悪いなあ。」
「おまけに、電線伝わってきた電撃で近くにいた奴らも三人ほど巻き添えや。そやけど、ブランブルは、一万千五百アンペア、八百二十五万ボルト、さっきより弱なっとるな。大分データとれてきたなあ。次は太い電線で、いっぺんにふたり行ってみよかって、マッド・サイエンティストぶりを発揮するんや。科学や、科学のためやって言うんやけど、この調子でいったら全滅やがなってロードシュトラムが止めて、みんなで生きた山の中へ怪物退治に潜り込んでいった。そこでも、ロードシュトラムが、危ないでカットシャーク、そのひくひく動いとるとこは消化液出しとるっちゅうて注意したら、さわってみいカットシャークって、たちまちどろどろに骨まで溶けてまう。ふうん、千百万くらいの消化ユニットがあるようやなって、また分析や。」
「科学者の鑑やなあ。こいつの部下になるんは絶対いややけど。」
「まあ、こないにキャラ立った登場人物たちが盛り上げてくれる作品なんや。主人公のロードシュトラムはどっちか言うたら単純な性格のキャラやからな。さて、なんとか生きた山をやっつけてサイレネカを脱出した一行やったが、宇宙船の故障でポリフェミアっちゅう惑星に降り立った。青草に覆われた牧畜の星や。愛想悪い牧童たちに頼み込んで汚いコテッジ借りて、一息ついたロードシュトラムは羊小屋覗いて吃驚した。二本足で歩いとる羊は、どうみても毛深い人間なんや。慌ててキャプテン・パケットに、あいつらほんまに羊かいなって尋ねたら、もじゃもじゃで汚いから羊の条件は満たしとるなってつれない返事や。ブランブルに尋ねたら、わては羊のことはよう知らんけど、羊の肝臓につく寄生虫なら詳しいんや。あいつらの寄生虫みせてみい、そしたら羊かどうかすぐ教えたるって返事や。」
「なんか、ロードシュトラムはんって、みんなに苛められとるんやないかなあ。」
「あたしも、そんな気がしてきたなあ。いっつも、誰もいうこときかへんし、何言うてもはぐらかす仲間ばっかしや。まあ、ええわ。しゃあないんで、ロードシュトラムは羊に尋ねたんや。あんさん、ほんまに羊でっかってな。そしたら、そうや、って答えた。そやけど、あんさんは二本足で立って言葉喋るし、人間とちゃうんかいなって重ねて訊くと、いやあ、人間は羊食べるけど、羊は人間食べへんしなあって返事や。まあ、毛もじゃで羊臭いから、羊でええかってなった。」
「筒井康隆にもあったなあ。どうみても人間の娘に見える馬が出てくる話。あれも馬臭いから馬やって結論やったけど。臭いで決まるんやったら、あんたもやっぱし猿やろな。」
「やかましいわ。その晩に一行は酋長から晩餐に招待されてもてなされるんやけど、ロードシュトラムはこれは羊じゃのうて人やから食えへんって、大皿ひっくりかえして文句つけたんや。酋長は、ほんまはもっと美味いもんがあるんやけど、あんたらには喰わせてやれへんなあって残念そうに言う。と、一行は罠にはまって全員とっつかまってまう。そんで酋長言うには、もっと美味いんは、あんたらのことやっ。」
「ラファティはんって人食った話多いけど、ほんまに人喰う話も結構好きやなあ。」
「次の日から、ひとり、またひとりと喰われていくんや。なんでかマーガレット姉さんはうまいこと取り入ってポリフェミア人に混じって一緒に喰うとるんや。最初に喰われたんがデ・プリマって美味そうな名前の奴やったけど、姉さん言うには、あたしプリマって前から気に入ってたんだけど、今晩の彼は今までで最高だったわ。すてき、すてき、すてきっ。」
「ほんま、姉さん文字通り男喰ってもたんやなあ。」
「ロードシュトラムらも黙って喰われてたんやない。ひとりダミーのでぶっちょこしらえて、ブービートラップ仕掛けたんや。喰ったら身体ん中で何千倍にも膨れあがってぱちんって寸法や。ところが、あんまり美味そうにつくったんでとっときのご馳走にされて、他の仲間が次々喰われていく。まあ、そうこうしとるうちに酋長のいとこがやってきたんで、ダミーの出番ってことになった。ロードシュトラムはマーガレット姉さんに今日は絶対にひと口も喰うたらあかんぞって釘さして、やつらがみんなはじけとんだら鍵盗って俺たち助け出せって指示したんや。姉さん、わかったわあ、食べちゃだめ、食べちゃだめっと。でも、ほんとに我慢できるかしら?なんて言うとる。」
「なんとなく、先読める展開やなあ。」
「首尾良くポリフェミア人みんなはじけとんで、一行は自由の身となった。結構仲間が喰われてもたんで、壊れてないほうの宇宙船に残り全員が乗り込めたんや。ところが、船の中で姉さん、あら、何か変だわよっ。」
「きたきたっ。」
「みんなの目の前で、姉さんみるみる膨れあがっていくんや。お前、喰ったな!ほんのちょびっと。あー、破裂しちゃうわあっ。」
「そんで、どないなったんや」
「この章は、危ないっ!どうなるんやってヒキで終わって、次の章からは、どうも無かったこととして別の話がはじまるんや。この辺が、よくマンガ(cartoon)的って評されるところかなあ。喰われた筈のブランブルも元気に登場するし。次の章の中ほどで突然作者の独白がはいるんや。あれっブランブルって殺されて喰われたんじゃあないの、いいやあれはみせかけだったんや、狡猾なブランブルはトリックをしかけたんだと。もしかして殺したこと忘れてて、途中で想い出して誤魔化したんじゃあって勘ぐりたくもなりますな。まあ、確かにただ殺されて喰われてまうようなやわいキャラやないけどな。」
「しっかし、ラファティはんもけったいな話考えるなあ。」
「そら、ネタが羊だけに、メンヨーな話になるわな。」
「失礼しましたーっ。」

(この項、つづく)


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