「おひさしぶりです、らっぱ亭とおるです。」
「ているです。」
「さて、今回は未訳長編、オーレリアのさわりのご紹介と、ラファティはんの作品に結構登場する元気な娘っこたちについてです。」
「オーレリアちゅうんは、主人公の娘はんの名前ですな。」
「そうそう。単行本の表紙に姿が描かれてます。」
「こら、けっこうイケてるお姉ちゃんやないですか。これで15歳になったばっかりでっか。金髪に染めて厚底靴履いて、コギャルのはしりでんな。」
「あほ、金髪はもともとやろ。どうも、この娘はカミロイ人のおちこぼれらしいんや。」
「カミロイっちゅうたら、冗談みたいな超英才教育やってる惑星でんな。カミロイ人の初等教育にでてくる。」
「そうや、哲学とジョーク、宗教と綱渡り、論理学と酒類賞味、経済とビルディング登攀、ロボット工学と取り込み詐欺、惑星の建造と聖者の資格などなどが同等に入り乱れたカリキュラムには唖然とさせられたなあ。筋立てもなんも無いけったいな作品やけど、妙に心に引っかかるんや。ところで、この初等教育の最終課程が世界政府や。第10学年では、15歳になると同時にどっかの惑星を何ヶ月か統治するんや。」
「それが、このオーレリアのお話しやな。」
「そうそう。そやから、おちこぼれっちゅうてもあたしらとはレベルがちゃうわな。実際、亜光速船を自分で建造して出発するわけや。しっかし、なんぼ超人みたいなカミロイ人ちゅうてもまだまだ半人前や。無事カミロイまで戻ってこれん奴もちょいちょいおる。それで、今年一番の劣等生、オーレリアは行く前からびびりまくっとるんや。」
「それで、眼えつぶってぶつぶつ言うわけやな。逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだって。そしたら無口で謎めいた同級生がわからないのって呟いて、タカビーな転校生があんたバッカじゃないのって...。」
「そのネタは古いわっ。それで、オーレリアは自作の出来損ないの宇宙船で出発したわけやが、クロノメータ、まあ自分がいま何処におってどっちに飛んでってるのかモニターする装置やな、を造り忘れとった。その他にもいろんな大事な部品を造り忘れとったんやけど、一方で普通はいらへんクラクションを七つも装備しとった。こいつら鳴らして、行く手を遮るもんにみんなどいてもらおうってわけや。」
「なるほど、やたらクラクションをブーブー鳴らすおばちゃんやら姉ちゃんやらおるもんな。窓から顔出して、どいてどいてーってな。はよ、ブレーキ踏むかハンドルきるかせえって。」
「それ以前に、だいたい宇宙空間でクラクション聞こえるかいっ。まあ、オーレリアがぶっとんだ娘ってのがわかるわな。それでな、クロノメータやら何やら大事な装置がいろいろ無いわけやから、オーレリアは自分が何処の惑星に向かってるかもわからへん。結局、どうにかこうにかひとつの星に辿り着いたんやけどな。そんで、普通はこそっと着陸して様子みながらその世界を統治するって算段なんやけど、オーレリアは七つのクラクションでけたたましく不協和音を鳴り響かせながら派手に不時着したから、いろんな人びとが続々とやってきてえらい賑やかな来訪とあいなったわけや。」
「なるほどなあ。先が楽しみな展開やな。」
「まあ、こっからどんどん予想もつかへんような訳わからん展開をしていく作品やけどな。お次はファニーフィンガー家のオーレッド嬢ちゃんや。ガキっぽい父ちゃんは丘のふもとでタイプライターの修理屋やってるんやけど、店の奥には丘の下に続く秘密の仕事部屋があって、オーレリアは壷に入った材料を溶鉱炉で加工して、生きた鋼鉄の犬やら創り出す。」
「錬金術師みたいな嬢ちゃんやな。」
「ちいちゃな娘で、むちゃむちゃ利発なんやけど、9歳で学校に行きはじめた時はまだ4-5歳にしかみえへんかった。学校の宿題はいつも満点やったけど、実はズルしとったんやな。例の仕事部屋でなんやごちゃごちゃやって、摩訶不思議にも正解のページを鋳造して印刷するんや。」
「便利やけど、無茶無茶めんどいやり方やな。わいはいつも休み時間にようできるやつのを無理矢理うつさせてもろうとったぞ。」
「しゃあないやっちゃな。」
「うっかり名前までうつしてもて、ばれてえらい怒られたけどな。」
「あほかい。それでな、オーレッドにもハンサムな彼氏がでけて、大きくなったら結婚してくれって話しになったんやけど、なかなか大きくならへんのや。大学生になっても、せいぜい9つか10歳にしかみえへん。けど、彼氏のセリムは結婚を迫るわけや。」
「端からみよったら、危ない兄ちゃんやな。9つの娘に求婚する大学生。」
「オーレッドも、あんたロリコン(cradle-robber)思われるわよって拒むんやけど、結構まんざらじゃあない。」
「アニメにしたら一部にうけそうやな。」
「そやけどな、一族の秘密があってなかなかうまくいけへんのや。それがわかって泣きじゃくるオーレッドの流す涙が、収録された短編集のタイトルにもなっとる鉄の涙(Iron Tears)となるわけやな。」
「なるほど。」
「ちなみに、第一短編集のタイトルは九百人のお祖母さん(Nine Hundred Grandmothers)で、同名の短編から採ってるんやけど、第三短編集Does Anyone Else Have Something Further to Add?ちゅう長ったらしい奴はどっからきたか判るか?」
「日本語では、"だれか、ほかになにかつけくわえたいことは?"か。なんか聞いたことあるような...。」
「"また、石灰岩の島々も"の最後のセンテンスや。」
「ふうん。結構収録作品から引っ張ってきとるんやな。第二短編集つぎの岩につづくの原題、Strange Doingsはどうや?」
「わからへんなあ。奇妙な行為って意味は全体にかかるようなフレーズやけど。もう一回よく読み返してみよかな。」
「サンリオSF文庫で、変なことする人って予告タイトルついてたやつやな。」
「奇妙な行為は、既刊のバーセルミの短編集、口に出せない習慣、奇妙な行為とバッティングする思たんかなあ。こっちはUnspeakable Practice, Unnatural Actsやけど。まあ、穿った見方かもしれんな。奇妙な行為ってのはラファティのタイトルとしたらちょっと重い感じやし。結局、早川版では'71年のヒューゴー賞短編第二席のつぎの岩につづくがタイトルに採用されたんや。」
「なるほどなあ、ま、しかし、わてやったらオーレッドよりオーレリアやなあ。どうせ、結婚するんやったら。」
「なんでや。」
「昔から言うやないか、カミロイの亭主は左うちわやって。」
「髪結いの亭主やっ!」