「またまたどうも、らっぱ亭とおるです。」
「わてが、ているです。」
「さて、ラファティはんの作品にはいろんな学者さんが登場しますが、自らけったいな発明して事件をまきおこす、いわゆる行動派のマッドサイエンティストものと、けったいな新説や理論を展開する理論派のマッドサイエンティストものに大別されますな。」
「ははあ、行動派と頭脳派ですか。海老一染之介染太郎みたいなもんですな。最近やったら唐沢俊一なをきとか。」
「どんな例えや。今回は理論派に絞って新説三昧といきたいと思います。まず有名ところとして、ダニエル・フェランはんからいきましょか。」
「"スナッフルズ"やら"町かどの穴"で出てくる御仁やな。」
「よう知っとるやないか。他では、Space Chanteyでもちょびっと触れられとるな。フェラン本人については"スナッフルズ"でくわしゅう書いとるからええとして、ここではフェランの推論っちゅう重力理論について紹介するわな。それによると、重力はただひとつの世界、"スナッフルズ"の舞台ベロータのこっちゃな、を除くすべての世界であまりにも弱すぎると考えたんや。そして、ベロータの重力のみが典型的で他のすべての世界の重力が変則的としたわけや。」
「ははあ、実はわてもな、わて以外の連中がみなちょっとおかしいんやないか思てたんや。ているの推論としよか。」
「好きにせえ。まあ、くわしい数式やらは当然出てこんのやけど、学会からは認められんと異端の説とされたんや。ところが、ベロータの重力は造物主が計算ミス認めおったから、フェランの推論はどうも旗色悪そうやな。反対に、すべての世界で重力が強すぎると考えたんが研究所シリーズでおなじみのディオゲネス・ポンティフェックスや。」
「おお、出てきおったな。」
「ディオゲネスによれば、本来あるべき重力の値より百倍も強いと言うんや。その理由がな、同じ重さと実体をもつ百個の天体が同時に同じ空間を占めとるせいやっちゅうんや。」
「どういうこっちゃ。」
「まあ、平行宇宙みたいな概念と思うんやけど、別次元やなく同一空間にあるっちゅうんがミソやな。そやから、人間も百もの違うた形態と人格を持ったひとりの人間が重なりおうて存在しとる。ユング言うところのひとりの人間には深層において複数の人格があるっちゅう説は誤りで、同じ空間に存在する別の人格がたまたま夢や無意識に入り込んでくるだけやちゅうことや。」
「えらい難しい話なってきたな。ほな、百キロのでぶでもほんまは一キロしかないっちゅうこっちゃな。そう思たら無理にダイエットせんでもええな。」
「なんでそうなるねん。」
「そやけど、百グラムの肉喰うても、ほんまは一グラムか。えらい損や。」
「あほかいっ。このディオゲネスは理論だけやなく、"町かどの穴"で実証のために実験して町がえらい騒ぎになってまうわけやけどな。まあ、次いこか。心理学者のジェームズ・リドルはんや。"Dorg"に登場するんやけど、ラスコー洞窟の動物画と、古代の新種出現の関連についての新説や。」
「ラスコーやらアルタミラ言うたら、古代人の壁画やな。」
「よう知っとるやないか。だいたい一万五千年くらい前の石器時代のもんやな。壁画はほとんどが動物画で、狩りで捕らえたいっちゅう願望をこめた呪術的なものや言われとる。ラスコーはフランスはドルドーニュ地方でみつかった洞窟で、絶滅したものも含んで百以上もの動物画があるんや。」
「おまえ、なんや百科事典みたいなやっちゃな。」
「リドルはんの説によると、ラスコーの動物画はもともとおった動物を描いたもんやのうて、その時点ではまだ存在してなかった動物を描いたもんやと言うことや。つまり、新種の出現を予兆したアートというわけや。その後に首尾よう出現した種もあるし、何らかのアクシデントで出現できへんかった種もある。さっき言うた絶滅種ちゅうんは、絵の中でのみ存在しとって、実際には現れへんかったもんや。」
「ほな、新種出現を予想して絵を書いたっちゅうことかいな。」
「いや、もっと能動的なもんや。彼らが必要とした新種、まあええ肉がとれるやっちゃな、それを描いたために、新種が突然に出現したんや。すなわち、アーチストが呪術的な創造性をもって新種の動物を発生させたんや。」
「なんや、ガバドンみたいやな。描いたもんが出現すると。それがほんまやったら、わては家にこもって壱万円札の絵を描き続けるわ。いやいや、可愛い娘描いた方がええかな。」
「あほかい。次いくで。"日の当たるジニー"のミンデン博士や。『偶発的突然変異』っちゅう論文やけど、ヒトはごく最近に驚くべき突然変異から出現した種族であって、偶発的で一時的な、間に合わせの眉唾もんの存在言うんや。」
「なるほど。不安定な種やから、ちょいちょいあんたみたいな先祖返りが出てくるんやな。」
「うるさいわ。もともとは身長1メートルの、4歳で成熟して14歳で老け込む活溌な猿だったんやけど、100匹に1匹くらい思春期を通り越して成長する生殖能力のない変異体がおった。こいつらは活溌な猿どものしもべだったんやが、ある日子供を生んで、正常な猿に対する突然変異抑制たる特権的変異種の人類が出現したわけや。」
「猿から一夜にして人類が生まれたと。たしかに、昨日まで猿やったようなやつもちょいちょいみかけるな。」
「こっちみて言うな。そやから、人類っちゅうんはまだまだ安定した種やのうて、いつ先祖返りおこして消滅するかもしれんっちゅう話や。」
「くわばらくわばら、明日になったら、世の中おまえみたいな猿ばっかりか。」
「しつこいわい。最後は"Mr. Hamadryad"のハマドライアドはん。ピラミッドやらイースター島のモアイやらメキシコの遺跡やら、古代の巨石建造物の謎についての新説や。」
「おおっ、トンデモさんかいな。宇宙人やら古代超科学みたいなありふれたもんやないやろな。」
「まずは、従来の説、丸太や土を築いた傾斜でえっちらおっちら運んだっちゅうわけないと。そんなことしたら絶対に痕跡が残るはずや。」
「やり手のお掃除おばちゃん雇うたら大丈夫と思うけどなあ。」
「おるかいっ。それで、どの巨石も機械や装置でもち上げるには重すぎる。最近のクレーン使うても最高300トンが精一杯やけど、巨石はどれもまだ数倍はあるんや。」
「ジャイアント馬場とアンドレ・ザ・ジャイアントとブルーザー・ブロディーつれてきてもあかんか?」
「あかんわっ。だいたいみな死んでもとるがな。」
「ほな、どうやったんや。」
「念動力や。」
「うわあっ、そうきたかいな。」
「それも、念動力をもつ黒豹のしもべを使役したっちゅう話。」
「超能力使おて巨石建築。もしかして黒豹のしもべってロデム言うんか。」
「なんや、今日のあんたのつっこみはアニメ・特撮系が多いな。」
「いやあ、おたく受けのネタとトンデモ博士たち。ラファティはんも日本でおったらサブカルの世界で一儲けでけたやろな。」
「たしかに、母国よりも日本のほうがウケがええってラファティはんも言うとったな。SFマガジンの1998年1月号(No. 499)に500号記念のコメント寄せとって、最後に予言までしとるで。『さらに500号つづくであろう』やと。」
「あたったら、本人も呼んでお祝いやな。」
「あほ、40年も先の話や。まあ、こやって新説だけ抜き出したら馬鹿馬鹿しいもんも多いけど、たいてい、先にとんでもない事件や現象が起こったり、まさに進行してたりするとこで学者はんの説明がつくと、妙にはまっておもろいんやな。やっぱり、ラファティはんの作品はストーリーやアイデアを抜き出して紹介するよりは、まず読んでみて語り口やけったいな登場人物含めて楽しむっちゅうんが一番や。」
「なんか、わてらの存在を根底から揺るがす意見がでおったな。ま、とりあえずつぎのネタにつづくっちゅうことで。」
「ほな、またね。」