「はいどうも、らっぱ亭とおるです。」
「ているです。」
「さて、今回は、三人の大科学者シリーズの紹介ちゅうことで、まずは"せまい谷"から。この作品はいろんな意味でラファティ世界を代表するものやな。」
「せまい谷が代表かいな。わてらやったらせまいアパートとか、せこい奴とか。」
「あほか。タイトルにぼけてどうするんや。まあ、あたしもけったいなタイトルやなあ思て読んでみたら、たしかに谷がせまいっちゅう話やった。」
「そのままやがな。」
「どんな話か言うたら、インディアンの親父が税金払いたない思てな、自分の住んどる谷に魔法をかけたわけや。よそもんが来たときは谷がせもうなってもて、入れんようにしたんや。」
「その魔法わてにも教えて欲しいわ。大家と借金とりとNHKの集金が来たときに部屋がせもうなるようにな。」
「お前んとこは、もともとせまいがな。」
「ほな、先に魔法を解いてもろて。」
「広うなるかいっ。それでな、とっぱちからラファティはんらしい描写があるんや。この親父、必要なバルサムの樹皮とニワトコの葉がなかったので、シーダーの樹皮とジャック・オークの葉をかわりに火にくべて、おまけにいきなし呪文をど忘れして、適当にペタハウエラット!とか誤魔化してまう。ところが...」
「ちょっとまたんかい、今メモっとるんやから。」
「ためす気かい。しかし、こんな樹皮やら葉っぱやら、このへんにあるんかいな。」
「代用でええんやったら、バルサン焚いて、ニワトリのトサカでもくべてみよか。」
「しょうもないこと言うてからに。それで、何でか稲妻が空に閃き、魔法が効いたわけや。このときの親父の科白がええな。"魔法が効いたぞ。まさか効くとは思わなんだ。"と、こうや。まあ、原文では"It worked. I didn't think it would."と、わりと平易なもんやけどな。」
「お前、原書で読んどるんか。ちょっと前から気になっとったんやけど、ラファティはんに全編関西弁でぶっとばす、ごっついやつ無かったかいな。」
「お前の言うとるんは、"ブタっ腹のかあちゃん"やな。」
「あれって、やっぱり原文でも関西弁になっとんかいな。」
「そんな訳ないやろ。原題は"Hog-Belly Honey"で、確かにブタっ腹のかあちゃんとなるわな。出だしは、原文では、"I'm Joe Spade--about as intellectual a guy as you'll find all day. I invented Wotto and Voxo and a bunch of other stuff that nobody can get along without anymore."これが、浅倉久志はんの訳(早川書房・海外SFノヴェルズ)では、"わいはジョー・スペード−−鐘と太鼓で探しても、これだけのインテリは見つからんど。ウォットーやら、ヴォクソーやら、もうそれがないとだれもやっていけん品物を、わいはぎょうさん発明した。"と、こうや。」
「おもろいなあ。なんやようわからんけど、そのWottoやらVoxoやら言うとこが関西弁かいな。」
「どこがや。まあ、話をもどすわな。それから半世紀の間、この谷には誰もよそもんが入れんかったわけや。ところが、ここに乗り込んできたのがランパート一家や。アメリカにはホームステッド法ゆうて政府が入植者に土地与える制度があったんやけど、この谷も税金はろとらへんかったから書類上は公有地になっとって、ランパート一家に払い下げされてもたんや。」
「まあ、屯田兵みたいなもんやな。」
「古いなあ。ランパートのおっさんは、ちょっとめんどいけどまあ普通の男や。5人のガキどもがまあこまっしゃくれた奴らで、奥さんはちょい天然はいっとる。これがラファティはんお得意のキャラ設定や。」
「なるほど、旦那がめんどいんが特徴か。」
「そこやないっ。まず、こまっしゃくれたガキやな。また後ででてくる"七日間の恐怖"とか、カーナディンとベンガルタイガー団、これは"超絶の虎"や"恐るべき子供たち"で活躍するガキどもや。"日のあたるジニー"やカミロイ人のガキども、"床の水たまり"などなど、妙に大人びた口きいて結構ツボ押さえとるガキの登場がひとつのパターンや。」
「やなガキどもやなあ。」
「また、それに対する地の文のコメントもええんや。例えば、役場の秘書の娘につっこむメアリ・ランパートに対して、"まだ八つだが、八つ半といってもじゅうぶん通る女の子だった"と。どこがちゃうねんって感じやな。」
「いやいや、こないだ実家で、婆はんも九十になったんやなあ、と言うてたら奥の部屋からよたよた這い出してきて、あたしゃまだ八十九だよって叫びおった。」
「なんや、それ。」
「"彼女はもう九十だが、八十九といってもじゅうぶん通る婆さんだった"と。わても、ラファティはんみたいな文章書けるな。」
「ぜんぜんちゃうわいっ。先いくで。一家が自分のものになる土地のところきてみたら、なんと幅2メートルの溝があるだけや。」
「そのホームステッド法ちゅうのも、けちくさい法律やな。わての部屋よりまだせまいがな。」
「ちゃうがな。見た目2メートルでもほんまは800メートルあるんや。」
「どういうこっちゃ。」
「魔法で目の錯覚がおこるわけやな。例えば石ころを溝に向かって放り投げたとする。石ころは空中に止まって、だんだん縮んでいって、溝に吸い込まれてまう。絶対に溝の向こう側までは届けへんのや。」
「そら、情けないわ。たった2メートルも届けへんのかい。」
「いや、そやからほんまは800メートルあるっちゅうとるやろ。2メートルにしかみえへんのは錯覚なんや。」
「なるほど、ちょいちょいあることやな。」
「なんや、それ。」
「こないだコンパでひっかけた娘はどうみても六十キロはありそうやったけど、自称四五キロ言うとった。あれも錯覚やったんか。」
「ちょっとちゃうんちゃうか。」
「年もどうみても三十前後やったけど、ハタチ言うとった。あれも錯覚やったんか。」
「あほかい。続けるで。これまでこの土地をホームステッド法で手に入れようとしてた人たちは、みんなここで諦めてもたわけや。ところが、ランパートのガキどもは物怖じせんとこのせまい谷に飛び込んでいきおった。天然はいった嫁はんもいっしょにな。」
「子供5人とおとなひとりか。よう2メートルの溝に入れたな。」
「まだわかっとらんのかい。谷の底には最初に魔法かけたインディアンの息子のクラレンス・リトル=サドルが住んどって、ガキどもといろいろおもろいやりとりがあるんやけど、谷の外ではランパートの亭主が騒ぎたてとった。溝に嫁はんとガキを喰われてもた言うて、保安官やら州兵やら新聞記者やら呼びたておった。それと一緒にやってきたのが三人の大科学者や。」
「いよいよ出てきおったな。オキシゲンデストロイヤーやら使うて凶悪なせまい谷と闘うわけや。」
「あほ、どないして谷と闘うんや。三人の大科学者とは、ヴェリコフ・ヴォンク、アーパッド・アーカバラナン、ウィリー・マッギリーの三人の博士で、おかしな事件があるたびにやってきて何やかし意見を述べるんやけど、実際に活躍するわけやないんや。」
「テレビの解説者みたいなやっちゃな。三人おったら、ひとりは絶対にせまい谷側のまわしもんとみた。いっちゃん若い熱血漢がランパートの嫁はんとできてもて、老科学者はクライマックス近くで謎めいた死を遂げるんやろ。」
「そやから、そういう話やない。まあ、ウィリー・マッギリーはどっちか言うたらせまい谷側かもしれんけど。」
「谷の底には莫大な財宝が眠っとって、最後はめんどい亭主から解放された嫁はんと若い科学者がハッピーエンドちゅうわけやな。」
「どんな話や。続けるで。そうこうしとるうちに谷の魔法が解けてきおった。せまい谷が広がってみどり豊かな美しい谷が全貌を現したんや。」
「いよいよクライマックスやな。最後の闘いに突入や。」
「ちゃうがな。とうとうクラレンス・リトル=サドルは半世紀の間ただで使うとった谷をランパート一家にとられてまうわけや。そこで、助け船をだしたんがウィリー・マッギリーや。も一回魔法を効かそうと働きだした。まあ、材料が揃わへんからイヌニレの樹皮とハリエンジュの葉使うて、呪文も適当にコーシカナテキサス!ちゅうて誤魔化したけど、これがまた効いたんやな。たちまち谷はもとどおりせもうなってもて、あわれランパート一家はぺっちゃんこや。」
「うわあ、スプラッターもんやったんか。幼児虐待もはいっとるな。」
「そやから、錯覚言うとるやろ。谷から逃げ出したら、ちゃんともと通りや。まあ、めでたくランパート一家を追い出して、せまい谷に平和が戻ったちゅうことや。」
「オキシゲンデストロイヤーはいつ使うたんや。」
「まだ言うとるんかいっ。」