「はい、こんにちは。らっぱ亭とおるです。」
「ているです。」
「さて、前回に続いてほら話のネタですが、わけわからんって評判のラファティはんの長編の中で、まだわかりやすい連作もののSpace Chantey、訳して宇宙舟歌のご紹介です。」
「トラック野郎に愛されて、いよいよ宇宙へ乗り出しましたか、八代亜紀。」
「むちゃむちゃ、べたやなあ。舟歌ちゅうても、もともとシャンティはフランス語の"歌え"からきた、船乗りたちが作業しながら歌うはやし歌のことや。主人公のキャプテン・ロードシュトラムは宇宙戦争の英雄で、地球に帰り着くまでのいろんな冒険の伝説が舟歌になってみんなに歌われるようになったっちゅうことや。」
「その表紙がこれかいな。なんや、この巨人は。」
「これは巨人の星ラモスで、トロル族の長ビョルンにロードシュトラムが捕まったところやな。ほかにも、とにかくいろんな星めぐりして、なんやかし事件にまきこまれるんや。」
「まあ順番に話してくれや。」
「まず最初は、快楽と退廃の惑星ロトファージや。」
「なんやぞくぞくするなあ。」
「そっちの方は期待せんほうがええで。ラファティはんは保守的カトリック教徒で、お色気は自主規制しとるみたいやし、なんせ1967年、昭和でゆうたら42年の作品や。クレプシス年代記(Annals of Klepsis)でも主人公カップルがお互いアンチョコみながら初夜にのぞんで、男がそんなこと教科書には不可能って書いてあるよって言うと、女が次の改訂版に載るわよって答える、まあなんとも微笑ましくも時代を感じるギャグがあるわな。」
「うわあ、なんや興奮してきたわ。」
「あほ、ぬかせ。それでな、ロトファージちゅうのは美しい人間しか入れん星や。まあ、ちょっとは規則を緩めてくれるみたいやが。結局、乗員でふたりばかし、まあどうしょうもないぶさいくな奴らやな、とっつかまって地下牢にぶち込まれてしまう。地下牢の定員は二名で、もっとぶさいくな奴と入れ替えられんかったら、死ぬまで出られんのや。」
「おまえやったら、当然獄死の運命やな。」
「うるさいわ。それで、ロードシュトラムと他の乗員たちは、おめーら、悪いなっていいながらいそいそと上陸してしまう。そこは永遠の午後の星で、希薄な純酸素の大気と低重力、まあものすごくだるい星やな。それでごろごろしとったら、きれいな姉ちゃんたちが世話してくれる。」
「二時間ポッキリ五千円とか言うて、ケツの毛までむしられるパターンやな。」
「どこの話や。それでだらだら寝てばっかりおったら、そのまま死んじまう奴も出てくる。そんな奴らは葬ったりせんと美味いスナックに転換されてまう。酒場があって、行きたかったらフーリっていうきれいな姉ちゃんたちがかついでいってくれるんやけど、そこで飲んでて美味いつまみ食べながら、ビッグベンダーの奴にも喰わせてやりたいなあ、なんて呟くとマスターが、あんたが喰べてんのがまさにビッグベンダーさんでっせと、こうくるわけや。」
「ソイレント・グリーンの世界や。あるいは、人喰い人種のジョークみたいやな。うちの女房のカツレツは最高や。今喰ってんのが女房やけどって奴。」
「しょーもないこと言うてからに。そんなこんなで、ロードシュトラムは生き残りのみんなを叩き起こして、この星から脱出することになるんや。」
「ちょっと待てや、最初にとっつかまったぶさいくな奴らはどうなったんや。」
「もちろん、助けにいったけど、既に解放されとった。もっとぶさいくな奴らがやってきたから入れ替えや。」
「それで、そのもっとぶさいくな奴らは助けてやったんか。」
「いや、実はまだ地下牢にいるんですって話。李さん一家か。」
「なんや、それ。ところで、さっきちらっとでてきたフーリって姉ちゃんのこと、もちょっと詳しく言うてや。」
「ああ、もともとフーリちゅうんはhouriって綴るんやけど、イスラム教で言うところの極楽に住むえらい別嬪さんのこっちゃ。まあ、転じてあだっぽい姉ちゃんの意味で使われるみたいやけど。」
「うわあ、ぞくぞくしてきたわ。」
「おまえ、そればっかりやな。それで、ロードシュトラムの知ってる伝説でも、フーリちゅうんは人間より旧い種族で、永遠に生きると。」
「なんや、婆さんばっかりかい。こないだも九百人ばかし出てきて、辟易しとったのに。」
「あほ、みな別嬪で、自称永遠の19歳ちゅうこっちゃ。」
「うわあ、あかんあかん、ハタチ前やったら法に触れてまう。」
「そやから、そんな店の話とちゃうって。そやけど、ふしだらで、ロードシュトラムもマーガレット姉さんちゅうフーリの膝に坐ってでれでれしとるんや。結局、このマーガレット姉さんと、もひとり流れもんのジョンっちゅう怪しいおっさんが一行に合流することになるんやけどな。それから、ラファティはんのレギュラー・キャラのひとり、メイビー・ジョーンズもゲストでちょっと出てくる。」
「誰やそれ、もしかしてのジョーンズって渾名かい。」
「まずは、Maybe Jones and the Cityっちゅう短編で出てくるんやけど、宇宙中とびまわっててある時、完璧な惑星、まあええ意味でのユートピアみたいなもんやな、それを発見したと。」
「住人みんなで口に長いゴムひもくわえてひっぱりおうとんのか。」
「そやから、べたなネタはやめんかい。ところが、その後、"新上海"っちゅう歓楽の星に行ってよろしくやってたんやけど、喧嘩して頭どつかれてな、その完璧な星の場所がすっぱり記憶から抜け落ちてもたってわけや。」
「ありがちな話しやな。」
「あきらめきれんジョーンズは宇宙中を探しまわるんやけど、結局みつからへん。ジョーンズは金持ちで、なんぼうさんくさい情報にも、気前よう金をばらまくんや。それで、宇宙の名物男になって"完璧な都市"は伝説となったと。」
「ふうん、わてにもちょっと紹介してや。ええネタありまっせ。」
「あほ、知っとったらあたしが先にネタ売っとるわい。それで、ある時知り合いのけったいな連中が集まって、みつからへんのやったらいっそ創ってまおかということになるんやが、そこに混じってるんがマーガレット姉さんや。それみつけたジョーンズはびっくりする。実は、マーガレット姉さんと完璧な惑星で知りおうとったんや。」
「ほな、一件落着やがな。しょーもない。」
「そやけど、姉さんに場所聞いても、ちゃんと教えてくれへん。あたしは何処にでもおるひとやさかい、いちいち場所わからへんっちゅうんや。」
「なんや、危ないひとやったんか。」
「ちゃうがな。いや、そうかもしれへんけど。それで、その後もなんかガセねたばっかり掴ませてカモにしとるらしい。まあ、きれいな姉ちゃんに入れこんでまうのは古今東西ようあることやけどな。」
「あんたもキタのアケミちゃんに...。」
「あほ、いらんこと言うな。まあ、ひとのフーリみてわがふりなおせっちゅうこっちゃ。」
「しょうもな。」
(この項、つづく)