その壱 九百人のお祖母さん



「えー、という訳で始まりましたこの企画、あたしがらっぱ亭とおるで、こいつがているでございます。」
「はい、どうもどうも。なんか最初はヴァレリー姉さん、エヴィタ姉さん、マーガレット姉さんの三人でちゃっかり娘なんて企画だったらしいですな。」
「そら、面白そうやないか。あたしもあんたとしょうもないこと喋っとるより、それ聞いとるほうがええわ。」
「なんちゅうこと言うねん。まあ、三人ともちゃんとひとの話聞かんし、何言うてるかようわからんことが多いんで止めになったっちゅうことや。だいたいエヴィタ姉さんとマーガレット姉さんなんて普段は何処におるかもようわからんし。」
「知らんひとが聞いても、ようわからんネタですな。まあ、あたしらにお呼びがかかったのも、もうちょっとふつうのひとにラファティはんをアピールせえってことやからねえ。」
「なるほど、ほなぼちぼちいきますか。ラファティはんの作品はわてらでもようわかる、おもろいほら話から、なんや頭ぐるぐるなるような哲学みたいなもんまで、まあいろんなもんがありますな。とっぱちはやっぱりほら話から。」
「あたしは、やっぱり最初の短編集の表題作、”九百人のお祖母さん”がお勧めやね。なんやおもろいタイトルやなと思って読んでみたら、ほんまにお祖母さんが九百人でてきおった。」
「そのままやがな。」
「どんな話か言うたら、小惑星プロアヴィタスに特殊様相調査員、まあちょっと品のええ宇宙海賊みたいなもんやな、の一団がやってきたわけや。主人公はおぼこいセラン青年で、他はみんなぶっ壊し屋のクラッグやら血塗れジョージやら恐ろしげな渾名の荒くれどもや。そいでな、みんながぶったくりしてる間にセランはひとり、考えに耽ってるんや。」
「色白で男前の文学青年やろ。木陰でゲーテかなんか読んでたりしてな。なんやわてみたいやなあ。」
「あほか、そこまでは書いてないわ。まあ、ええ。セランはぶったくりに色を添える文化担当みたいな役なんや。それで、接触したプロアヴィタス人から自分らは死なへんっちゅう話聞いて、探ってたら通訳のノコマ姉さんが自分ちにはお祖母さんが九百人おるってとんでもないこと言い出したんや。」
「そらたまらんな、そいつらがみな姑やったら九百人の嫁いびりや。壮絶やろな。ちょっと、ノコマさん、この味噌汁塩辛いですわ、あたしらの血圧上げて殺す気ですかっ!って九百人がユニゾンで文句言うて、その度九百回あやまらなあかんのや。」
「なんちゅうことを。」
「そのうち惚けてきたら大変やで。夜なったら九百人の徘徊や。こら映画にしたらゾンビより迫力あるで。」
「そんな話とちゃうわい。だいたいお祖母さんたちはみな小ちゃくなって年に一回の儀式のとき以外はほとんど眠っとるんや。」
「ああ、そうか。それで年に一回目覚めていっせいに、ノコマさんっ、こんなとこに埃がっ!もうあたしが見とらへんとさっぱりわややねえ、なんていびりだすと。やな儀式ですなあ。」
「もう、その嫁姑路線から離れんかい。それで、このセランちゅう男は昔から、総てのはじまりはどうなってるんだろうって、まあ子供がよう考えとるような謎に執着しとったんや。そいで、プロアヴィタス人が死なへんとしたら、最初のお祖母さんに聞いたらそもそもの始めの謎が解明できるわけや。」
「そやけど、聞いたら惚けとってやっぱりわからへんかったと。」
「惚けネタももうええわっ。儀式ってのが年に一回、十世代以上の子持ちになったお祖母さんたちが集まって、始まりの話をするってものや。ところが、異種族のセランにはけたけた笑うばっかりで、全然教えてくれへん。」
「結局、謎はとけへんリドル・ストーリーちゅうことやな。ようできた話やけど、わて、ひとつ気になることがあるわ。」
「なんや、また嫁姑や惚けネタちゃうやろな。」
「いや、気になったんは九百人のお祖父さんはいったい何処行ったんかいなと。」


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