2011年に青心社より刊行された井上央編訳の短編集
井上央編訳・Seishinsha SF Series, 1500円, '11, ISBN-10: 4878923814/ ISBN-13: 978-4878923814
カバーイラストレーション: 後藤啓介
‘82の『子供たちの午後』に続いて、2011年に日本独自編集版として、井上央の編訳で刊行された。全作品本邦初訳。巻末の訳者による解説「物語と永遠」では、ラファティと村上春樹を比較して論じている。
刊行前に訳者よりいただいた本作の紹介文では、「ラファティのエッセンス、スラップスティックなほら話と遠大なSF 的ビジョン、哲学・宗教的思考とが奇跡のように結合した作品群。歴史への関心、ノスタルジックな側面、現代社会への洞察も散りばめられている。物語作者ラファティにとって物語とは何かを考える重要な材料ともなる」とのこと。ラファティ全著作!を読んで選びぬかれた短篇集であり、収録作の選択や配列、翻訳をも含めて通底する井上節が感じ取られる見事な一冊となっている。
なお、本作の出版前に収録予定作を教えていただき、京都SFフェスティバルの合宿企画で配布するため簡単な紹介パンフレットを作成した。せっかくなので以下の収録作リストにコメントの一部を転記する。まあ、記憶力の減退と英語読解力の不足のおかげでたいしたことは書いてませんが (笑)。
収録作品:
Bequest of Wings(だれかがくれた翼の贈りもの)
「未来が個人におよぼすインパクト」をテーマにオールディス、イアン・ワトスン、ジーン・ウルフらが書き下ろしたアンソロジー"Rooms of Paradise"に収録。表題作に選ばれるだけあって、残酷な美しさとせつなさが胸に染みるような、これまではあまり紹介されていなかったラファティの一面が味わえる佳品。(review)
The Last Astronomer(最後の天文学者)
Drumm Books から何冊か出たチャップブック・シリーズの一冊"Four stories"に収録。(余談ですが、細かなタイプライターの文字がびっしりのこのシリーズは読むのに一苦労でした) ちなみに、星新一の「進化した猿たち」によれば、当時アメリカの街角には有料の体重計があって、体重とその日の運勢を告げてくれたのだとか。さすがに最近は見かけないような気がするなあ。(review)
Golden Gate(なつかしきゴールデンゲイト)
Corroboree Press から1000 部限定で発行された短篇集”Golden Gate and Other Stories”の表題作。短編集未収録作品ばかりを収録し、本作と「片目のマネシツグミ」を含む6 篇はこれが初出。その他もヒューゴー受賞作の"素顔のユリーマ"をはじめ、当時入手困難だった作品が収録された嬉しい選定だった。本作はThe Year's Best Science Fiction, First Annual Collection, '84 にも再録された。(review)
Rainy Day in Halicarnassus(雨降る日のハリカルナッソス)
ニューオリンズにて開催されたDeep South Con ('79)にてラファティは「つぎの岩につづく」でフェニックス賞を受賞。あわせて記念刊行されたブックレット"At the Sleepy Sailor"が初出。ラファティ・キャラが愉しげに集う酒場の表紙絵はDany Frolich の手になるもの(@RappaTei のTwitter 背景画です)。本作は後にアンソロジー"Betcha Can't Read Just One"およびチャップブック"The Back Door of History"に再録された。(review)
One-Eyed Mocking-Bird(片目のマネシツグミ)
本作も"Golden Gate and Other Stories"初出。京大SF 研の「中間子天堂編」で読まれた方もおいでるかな。ラファティお得意の、聖書と知られざる歴史ネタをからめたマッド・サイエンティストものだ。後期ラファティならではの難解さもあるが、全体として楽しい佳品となっている。ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」からイーガン「クリスタルの夜」に至る、ミクロコスモスものの系譜にも連なる一品。(review)
The Casey Machine(ケイシィ・マシン)
アルゴ神話ものを3 篇収録したチャップブック"Episodes of the Ago"に収録。70 部のサイン付き限定版には「ケイシィ・マシン」補遺がついているのだが、後日談的な内容であり、本稿ではあえて訳出しなかったとのこと。
Holy Woman(マルタ)
これはきわめて入手困難な一作。初出はUnited Mythologies Press より刊行された"Dotty"の70 部サイン付き限定版にのみ収録。その後、セミプロジン"Strange Plasma"に再録されたが、これも入手は難しい。人気の「苦虫ジョン」シリーズ作で、出来もいいのでもったいないなあ。これが読めるだけでも、日本のラファティ読者は幸せですぞ。(review)
Pleasures and Palaces(優雅な日々と宮殿)
Drumm のチャップブック・シリーズ"Snake in His Bosom and Other Stories"に収録。最後に明かされる意外なスイングの出自と故郷の描写、世界中の怪しげなディナーを前にスイングと特殊天才の友人たちの哲学的問答のような会話など、中後期のラファティらしさに溢れた作品である。(review)
John Salt(ジョン・ソルト)
Drumm のチャップブック・シリーズ"Slippery and Other Stories"に収録。ちなみに、"Four Stories"収録の"Faith Sufficient"は後日談となる。「ジョン・ソルト」のネタバレがあるので、先に読まないようご注意を(←そんなやつはいないよw) (review)
In Deepest Glass: An Informal History of Stained Glass Windows(深色ガラスの物語 −非公式ステンドグラス窓の歴史)
The Berkley Showcase, vol. 4に収録。ステンド・グラスに封じ込められた世界の意匠って発想は"大河の千の岸辺"をも思い起こすが、ボブ・ショウのスロー・グラス、ディレーニーのドリフトグラスと並ぶ世界三大ガラス・テーマSFに選ばれているのは有名な話(嘘)。(review)
Inventions Bright and New(ユニークで斬新な発明の数々)
アシモフ誌に掲載された短篇集・アンソロジー未収録作。(review)