1993年に早川書房より刊行された浅倉久志編訳の短編集
浅倉久志編訳・ハヤカワSF文庫, SF1009, 760円+税(二刷, '98), '93
ISBN: 4-15-011009-3、カバー: 横山えいじ
'93に日本独自編集版として、浅倉久志の編訳で刊行された。訳者あとがきによれば、「往々にして難解といわれるラファティ作品の中から、アメリカほら話的なおもしろさにあふれた、なるべくわかりやすい(というか、ぼくにもわかる)作品を選びだすことだった」とのこと。確かに、日本でのラファティでの人気は浅倉・伊藤両氏の功績が大であると思う。訳文の素晴らしさはもちろんであるが、翻訳紹介をする作品の選定によって、日本で受け入れられている"ラファティの作品"のイメージを創りあげたといえる。
大森望による"イースターワインに到着"の解説"イースターワインに乾杯"はファン必読のラファティ論だが、その中で語られる「ラファティの短編と長編とでは、猫とパイプオルガンほども違う」との意見にはやや異を唱えたい。これは、邦訳されたラファティ作品には適応されるだろう。すなわち、浅倉・伊藤氏のフィルターを通ったラファティ(浅倉フィルターには時に過激なエフェクターがかましてあり、伊藤フィルターはイコライザーで調整可能という説も)には。考えてみると、英語を母国語とする読者には作品を選べないわけである。たまたま買った雑誌やアンソロジーでラファティ作品に触れ、頭をかかえたり本を放り出したりする読者の姿は想像に難くない。そういう意味では、日本語でラファティを読んでいる読者はラッキーなのかもしれない。(時に、"ファニーフェイス殺人事件"のようなわけわからない作品も訳出されるが、あれはあれでスラップスティックな不条理コメディとして愉しめばいいんじゃないかって思う。)
そうはいっても、本作品集の収録作はどちらかといえばラファティのポピュラリティよりは編者の好みが強く出ているんじゃないかと感じられるし、ぼく自身としても既訳の短編集の中では最も好きな作品が多い。ラファティ初心者には、まずは"九百人のお祖母さん"をお勧めするが、本作品集を読んでラファティにはまってしまったら、もう逃れられないだろう。あとは、いまや年に一篇載るかどうかのSFマガジンをじっと待つか、新たな短編集の企画を待つか、あるいはぼくみたいにラファティ読みたさの一念で原書に手を出すか。
なお、第三短編集"Does Anyone Else Have Something Further to Add?"からは5篇(秘密の鰐について、また、石灰岩の島々も、とどろき平、このすばらしい死骸、世界の蝶番はうめく)が選ばれている。
収録作品:
This Grand Carcass Yet(このすばらしい死骸)
About a Secret Crocodile(秘密の鰐について)
Been a Long, Long Time(寿限無、寿限無)
Condillac's Statue(コンディヤックの石像)
Boomer Flats(とどろき平)
三人の大科学者シリーズ。とどろき平がお気に召したら、Royal Licoriceもどうぞ。
Nor Limestone Islands(また、石灰岩の島々も)
作中のヒロイン?ことフォスファー・マッケイブは、"泉が干あがったとき"にも再登場。
Groaning Hinges of the World(世界の蝶番はうめく)
Parthen(処女の季節)
The World as Will and Wallpaper(意思と壁紙としての世界)
Days of Grass, Days of Straw(草の日々、藁の日々)
とおる・ている参照。
Rivers of Damascus(ダマスカスの川)
アウストロのシリーズ。(review)
Puddle on the Floor(床の水たまり)
Thieving Bear Planet(どろぼう熊の惑星)
おそらく、居住世界シリーズに入るのだろう。マンブレイカー・クラッグとかもでてくるし。
Ifrit(イフリート)
Square and Above Board(公明にして正大)
Oh Whatta You Do When the Well Runs Dry(泉が干あがったとき)
Something Rich and Strange(豊かで不思議なもの)