楕円形の墓所(The Elliptical Grave)


United Mythologies Press, 1989



 ラファティ後期の中篇(100ページ程度だから短めの長篇と言うべきか)。人類の創世は豊かであり現代よりも遙かに複雑で素晴らしい文化と言語を持っていた、という自説を証明するためにレヴェントロ教授の一行は(なぜか)南イタリアの"白い山羊の谷"へと調査旅行にやってきた。教授によれば、この楕円形の谷こそが人類創世の謎を解き明かす鍵となるタイム・マシンであるというのだが...。例によって漫画の登場人物を思わせるキャラのたった教授たちと学生たち、様々な幽霊や異形のものが入り乱れての"研究所"シリーズをも思い起こさせるアカデミック・スラップスティック・コメディ(何のことやら)。しっかし、10ページ強の第一章で登場する名前のついたキャラが17人。これが、章を追うごとにどんどん増えていく。お約束の繰り返しギャグを発するためだけみたいなキャラをはじめ、コミック・ストリップを眺めるような感じで読むのが正解かも。

 さて、舞台は大学の講義室から始まる。この大学では、正課の講義の他に"浮動的講義"という、まあ学生たちが専門外のことを囓って学識に幅をもたせようって趣旨のはみだし講義が設定されていた。レヴェントロ教授の"世の始めには"と題した講義はややトンデモがかった独創的な内容により盛況で、熱心なリピーターたちもいた。その内容といえば、人類の創世は豊かであり現代よりも遙かに複雑で素晴らしい文化と言語を持っていた、というもの。それがどんどんと目減りしていって、シンプルな言語と薄っぺらな文化の現代に至ったのだ。
 レヴェントロ教授は謎めいた啓示を受けて(あるいは、まるで電波系みたいな受信により)、南イタリアにある"白い山羊の谷"への調査旅行を企てる。教授によれば、この楕円形の谷こそが人類創世の謎を解き明かす鍵となるタイム・マシンであるというのだ。普通ならこんな怪しげな企画に予算が降りるわけはないのだが、たまたま余剰の予算を遣い切らなきゃいけない時期にあたっており(これは企画立案の張本人、出納担当のランサムの思う壺)、まんまと予算をせしめて調査旅行は実現した。一行はレヴェントロ教授と同僚たち、教授を信奉する学生達プロメテウス・クラブの面々だ。学生達は、教授の理論をもとに、現在の状況からの進化を目論んでいる。
 しかし、一行の行く手を阻む敵、凶悪な幽霊のストイケイオーたちにより、教授や学生たちは何度か命を狙われる。また、何か重大な秘密を握ったアクロバットのカップル(彼らも教授の講義のリピーターだ)が命がけの追跡劇を演じながら一行にメッセージを送ってくるんだけど、この方法がとんでもない。教授たち一行のみならず関係ない一般人の夢の中やテレビの画面にまで映りこんで、謎めいたメッセージを語りかけるのだ。世界中を駆けめぐり、ある時は都会の街中を逃げまどい、ある時はジャングルで蔦をロープにターザンよろしく飛びまわる。たまにロープがアナコンダだったりしてぐるぐる巻かれたり。この追跡劇は、現実の世界で彼らの無惨な死体が発見されてからも続いている。
 "白い山羊の谷"に辿り着いた一行には、いつの間にかストイケイオーも紛れ込んでいるのだが、なぜかザシキワラシよろしく気付かれない。この地には様々な幽霊たちがいて、一行が居を定めた城でも幽霊の使用人夫婦が何かと世話をしてくれる。前世紀の幽霊や、上空からやってきた"見えない男"、運送業を営む聡明なトロルに、地中から掘り出された若者など、妙な仲間もどんどん増えていく。高揚する一行だったが、実はストイケイオーの麻薬による多幸症の罠だった。一瞬の隙をついて、一行は快適なホテルにみせかけた楕円形の墓所に一網打尽に幽閉されてしまったのだった。
 そこは、時間の停滞した絶対の罠であり、脱出不可能な空間だった。ストイケイオーや幽霊たちは自由に出入りできるが、幽閉された一行はその中で徐々にひからびていきながらも、次々と新たな能力に目覚めていく。さあ、人類の新たな進化は達成されるのか、それともストイケイオーの企みが功を奏して全滅してミイラになってしまうのか...?






リストへ