短編作品紹介
The Altruits(愛他主義者)
惑星スコスの住民スラーブは太った蜥蜴みたいな非ヒューマノイドで、奇妙な特性を持っていた。徹底的な愛他主義を発揮して、人間に対し至れり尽くせりの歓待をしてくれるのだ。独裁的なマルコムにとっては夢のような星であり、宇宙船の事故を装ってスコスを訪れた彼はサービスを満喫し、次第に残酷性を発揮してかしずくスラーブたちを痛めつけては喜びを感じるのだった。ところが、スコスの太陽が触にはいった時状況は一変したのだ...。
Asking(ある解答)
ロボットがいきわたり、人類は奉仕を受け自らは何もしなくてもよくなった時代の話。銀河系の文化を調査する主人に仕える女性ロボットが、ノイローゼを思わせる変調を訴えてロボット・メカニックのところを訪れた。彼女の言動に不審をいだいたメカニックだったが、とりあえず修理を試みようとしたところ...。
Birthright
(おそらくは核戦争の影響のためか)生まれてくる子供たちはストロンチウム誘発性の骨悪性腫瘍がなければ"正常"とみなされる時代のこと。様々な先天性の障害を持つ子供達について、どれだけの医療を施して救うべきかが問題となっていた。看護婦長のピーボディは糖尿と視力障害を持つパトリック坊やの重度の心奇形に対する手術適応を求めたが、外科医たちは首を振るばかり。一計を案じたピーボディは薬局からある薬剤を持ち出して院長のところへと交渉に行った...。
障害児の生きる権利について問題提議を投げかける作品だが、パトリック坊やの手術命令を何とか勝ち取ろうとするピーボディの(医療従事者としてはとんでもない)行為(ネタばれになるので同色フォントで:フェニルケトン尿症にかかっている院長の紅茶にこっそりフェニルアラニンを混ぜて譫妄状態にして無理矢理書類にサインさせた)に対し、素直に拍手できないところもある。しかし、最後のところでピーボディの異常なまでの熱意が理解できるオチもちゃんとついている。
Braulieu(ボーリョー)
ボーリョーとは主人公デントンが昔から夢想してきた安住の地。この夏、デントンはなかば真剣にボーリョーを探索していた。癌の宣告がなされ、長く苦しい闘病生活が始まるのだ。悩めるデントンを拾ったのはスポーツカーを運転する美女。ワルキューレをハミングしつつ、彼をボーリョーへと連れていってくれるというのだが...。
Brightness Falls from the Air(光、天より堕ち...)
人類が宇宙に進出し、あまたの惑星を占領していった時代の話である。人間そっくりの顔をもつ鳥人たちは地球人の娯楽として生死を賭けた戦闘ショーを演じることにより生きのびていた。主人公のカーは死体検証局に勤める若者であり、ライラはこういったショーによって命を落とした兄の遺体を引き取りに来た鳥人の娘だった。ライラに惹かれ、鳥人たちの置かれた境遇に対し若者じみた義侠心にかられたカーはなんとか彼らを救おうとするのだが...。
Change the Sky(空を変えよ)
宇宙船の中で生まれ半生を全宇宙のあまたの世界を駆けて過ごしてきたペンドルトンだったが、ついに身体にガタがきて宇宙に飛び立てぬ日がやってきた。彼が訪れたのは擬似世界を創造するアーティストのところ。故郷を追い求める強迫観念をもったペンドルトンは、『これこそ全宇宙で最も愛する地』の創造を依頼したのだ。アーティストが創りあげたのは、ペンドルトンが強い印象を得た様々な惑星の情景をモチーフとしたパノラマ世界だったが、満足を得ることはできなかった。そして、次に紹介されたアーティスト、ツヴァイクのとった世界創造へのアプローチは全く異なったものだった...。邦訳のある短編集、"どこからなりとも月にひとつの卵"の原書での表題作にも選ばれた作品で、意表をついた展開と奇妙な安堵が得られる結末が何ともいえぬ読後感を醸し出す。
Child of Void(かくれ谷の子供)
アルバートおじさんがダイナマイトを使って奇妙な自殺をしたため、ママとぼくと弟のドニーは遺言にて遺されたかくれ谷へと越してきた。だけど、そこは何か邪悪で異質なものが潜んでいたんだ。ぼくとドニーは何とか奴らをやっつけようとしたんだけど...。
The Death of Each Day(日々の死)
戦争がはじまった。最初が肝心だと日中は猛攻撃を加え、夜間は休止する。これはルールに則った「限定戦争」なのだ。戦士達は医療ロボットにより治療され、精神安定剤と記憶抑制剤と催眠療法により明日の戦闘再開に向けて癒される。さて、デントン中隊長は数日前に傷ついた恋人のミリアムを見舞ったところ、やっと来てくれたのね、ひと月以上も寝ているのよ、との言葉に戸惑いを感じた。そして、さらに驚いたことについ先日始まった筈のこの戦争は、もう十年以上も続いていると告げられたのだ。
コントロールされた戦士たちの無情で無意味な人生の情景を背景に、マンドリンを爪弾きながらミリアムの唄う詩は美しく希望に満ちている。コードウェイナー・スミスにも通底する冷徹な残酷さが満ちた作品だが、同時に柔らかな優しさが確かに感じとられるのだ。
An Egg a Month from All Over(どこからなりとも月にひとつの卵)
当時、他の出版社と比べてサンリオSF文庫は割高だった。貧乏な中学生だった僕は当時はまっていたディック以外は、慎重に選びながらぽつぽつと買っていたのだが、そのために買い逃した名作も多い。ラファティやスラデックは待ちかねて買ったんだけど、よく知らなかったカヴァンの氷やコニイのハローサマー・グッドバイとか未だ持ってないのだ。やはり何者かまったく知らなかったセントクレアの短編集を手に取ったのは、この奇妙な日本版表題作のおかげもあるだろう。(卵の殻を破って美少女が出てくる表紙に騙されたって説もあり)大枚560円(1980年当時、文庫本が500円を超えるなんて大事件だったのだ)をはたいて手に入れた本書は表題作にもまして訳の分からぬ魅力があって、何度も読み返したものだった。
なんかせこい昔話はさておき、この作品はタイトル通り内容も思いっきり変だった。ジョージ・リダースは砂漠の小屋に巨大な孵卵器とともに暮らす中年男。死に別れた母親以外の女性とは3語続けて口を聞いたことがなく、「今月の卵」クラブから送ってくるいろんな惑星の生物の卵を孵すことが生き甲斐だ。さて、今月はチュー蜥蜴の卵の筈だったが、実はムンクスックス鳥の卵が手違いで送られてきた。得体の知れぬでっかい卵はだんだんと大きく柔らかくなっていき...。やがてシュールでグロテスクな結末へと至るのだが、今読んでみるとさりげなく内気な中年男の秘めたる欲望を冷徹に剔り出してたりするセントクレアおばさまってやっぱり怖いわ。
The Family(聖家族)
今年もまた、お兄ちゃんが新たなガールフレンドを家に連れてくる。家族みんなで聖なる儀式を行うために。Weird Talesに掲載されたホラー作品。
Fort Iron(アイアン砦)
ベイリス少佐はアイアン砦へと配属された。さあ昇進だと喜んだのも束の間のこと、どことも知れぬ砂漠の真ん中で朽ちかけた砦で、営舎から離れない司令官とやる気のない部下たちに囲まれて、途方に暮れる毎日が待っていたのだ。ある日のこと、司令官に無断で崩れかけた砦の一角を修理させたベイリスだったが、修復箇所が奇妙で堅固なきらきら光る硝子質の構造に変貌しているのを発見し、やがて謎の敵との不可思議な戦闘がいつの間にか進行していることが明らかとなってきた...。不気味な不条理感が緩やかに高まってくる作品である。
Goddess on the Street Corner(街角の女神)
年金暮らしのポールが街角で拾ったのは、まがうかたなき美の女神アフロディーテ(のなれの果て)だった。ブランデーしか受け付けない女神のために、ポールは血を売ったり万引きしたりして必死に尽くすのだが、女神はどんどんと弱っていって...。
天然ボケのはいった純粋なところはベルダンディーとも通じるんだけど、こんな女神さまはやだなあ。冗談はさておき、ちょっと気になってるのが冒頭の女神を部屋に連れてくる時の描写である。手元には伊藤典夫訳(ファンタジーへの誘い・収録)と野口幸夫訳(どこからなりとも月にひとつの卵・収録)があるのだが、伊藤訳では「女だと思いこんでしまった彼は、日ごろおぼえのない衝動につき動かされていた」、野口訳では「女だと思い、ふだんはまず縁のない義務感に従っていた」ために、彼女を部屋に連れていったのである。ちなみに、原文は「he thought she was a woman, and he yieled to an imperative that rarely touched him」。おそらくは初老のポールが、『年とってるけど美しい』弱ってる女神を人間と思いこんでいて取る行動として、『美しい女性に対する衝動』か『年とって弱った女性に対する義務感』かとして、"yieled to an imperative"をどう解釈するか、という問題になるだろう。"imperative"はOxford Advanced Learner'sでは"a thing that is essential or urgent"。僕は衝動説(義務感を深読みすれば話は変わってくるが)がすんなりくるので『義務感に従っていた』という部分が初読時からひっかかっていたのだが、初老になってからもう一度読み返してみればまた感覚が変わってたりして。(しかし、この項はほとんど内容紹介になってないなあ)
Graveyard Shift(深夜勤務)
レオン・ポークは二十四時間営業の百貨店店員だ。訪れるのは変な客ばかりで、試着したピンクの肌着でモーションをかける美女に、雉子小屋を襲う有翼竜に悩んで銀の銃弾を購う男、箱に入れたペットの白イタチを持ち込む男など。しかし、この百貨店にも隠された重大な秘密があったのだ...。不気味だけど愉快なファンタジー作品。
The Hero Comes
本作は『古風な鳥のクリスマス』とかに通じるグロテスクなスラップスティック・コメディ。
「ぼくは条約により保証されたぼくの権利を行使したいんだっ」アピイはがあがあと喚きたて、羽をばたばたさせた。シャーリーンは意固地な感じに小さな眼を細めた。「大昔の条約じゃない。期限切れよ。あんたら鳥人間がやってきて、なにかと振り回されるのはもうまっぴら」「旧い条約かもしれないけど、撤廃されてないよ。おたくら地球人に宇宙船の修理ステーションとして用地を無期限に貸与するかわり、繁殖期の雄鳥が要求すれば羽にカラフルなプラスティック・コーティングをしてくれるってこと。こちらも期限なしだ。それと、もうひとつ。タッツェル虫の孵化を阻止するのに協力するってこと」
冒頭からコメディ・タッチだ。このさびれた惑星では、やる気なんてまったくなく、チョコレートをつまみながら白昼夢にひたるのだけが愉しみの女性管理官シャーリーンが、いつか迎えに来てくれるヒーローのために、プラスティック形成マシンで施設の外塀を高くする毎日だ。なんでって?もちろん、ヒーローには乗り越えるべき高い障壁が必要だからだ。そこ に、雌にアピールするためにプラスティック形成マシンで羽にコーティングしてもらいにやってきた若い鳥人アピイ。アピイとシャーリーンのやりとりはカートゥーンめいて愉しめるが、やがてアピイの暴走による伝説のタッツェル虫の孵化とともに、グロテスクな悪夢へと変貌する。
The House in Bel Aire
配管工のアルは深夜に豪邸へ呼ばれバスルームの修理を行った。何気なくバスタブから剥がれ落ちた飾り石を拾ったのだが、宝石セールス業の義弟のミルトによると正真正銘のエメラルドだという。アルたちは泥棒に入る決心をした。屋敷にはほとんど人気はなく、なぜか妙な眠気が襲ってくる。蜘蛛の巣の張った寝室で豪奢な宝石類−−ネックレスやティアラ、腕輪等を発見し狂喜して鞄に詰め込むアルは、ベッドに人の気配を感じた。そこには...。If, '61/1に掲載されたショートショート。
Lazarus(ラザロ)
合成肉工業の発達により、動物の筋肉を生成桶で増殖させた美味で栄養豊かな人造肉が供給されるようになった。今日は雑誌の取材記者たちの見学日である。工場長のフレムデン氏はなぜか神経質になっていた...。ラザロとは、聖書でイエスが死から甦らせた男の名前ってくらいは知っておいた方がよいだろう。
The Man Who Sold Rope to The Gnoles
セールスマンのモーテンセンはGnole族(ノームGnomeからの造語か?Gibbelin族なんてのも出てくるし)にロープを売りつけようと企んだ。とかく評判のよろしくないGnole族だが、なぜかロープをものすごく欲しがっているのだ。Gnole族の住居に入り込んだモーテンセンはエメラルドやら珍奇な宝物やらで飾り立てられているのを発見する。上客だ!そして、まんまとマニラ麻のロープをしこたま売りつけることに成功したのだが...。
Marriage Manual(結婚の手引)
惑星バイデアの住人ドルフ族は奇妙でとびぬけた性生活が自慢である。それというのも、ドルフは肉体の本質が電磁スペクトルで構成されており、彼らの営みは準電気的エネルギーの放出を伴い未知の領域へと誘ってくれる現象なのだ。それに比べたらいかなる人間の行為もゾウリムシの接合と大差ないものなのである。さて、人類は彼らの交接の秘密が記された婚儀典書を手に入れようと企んでいた。好奇心はさておいて、適当な動力欠乏にあえぐ地球テクノロジイにとって新たな磁気エネルギー資源の鍵となる可能性があるのだ。バイデアに潜入して消息を絶ったビルを捜索にきた同僚のジョージは事の顛末をひとりのドルフから語られたのだが...。(以下は蛇足)叙述トリックの技法があったりもするのだが、翻訳での処理はちょっとあざとい感じも受けますね。(←おもしろいんだけど。)
An Old-fashioned Bird Christmas(古風な鳥のクリスマス)
クレム・アデルバーグ師の説教は天下一品であり、電飾で派手に飾り立てられた最近のクリスマスを非難し古風で敬虔なクリスマスを提唱した法話の後には、パシフィック・スロープ全域で電力消費が27%落ち込んで2月末まで正常に戻らなかった程である。かくて、電力会社は彼を亡きものにしようと殺し屋の大鴉たちをさしむけたのだ。降り注ぐ青酸爆弾やオウム病爆弾をかいくぐり、胡散臭い愛人マズダとともに逃走を図るアデルバーグ師の運命やいかに!?
SFともファンタジーともつかぬスラップスティック・コメディは、不気味で予想もつかない結末へと至る。テリー・ギリアムに映画化してもらったらどうかな。
Prott(プロット)
宇宙のある区域に群棲するプロットは大きな半熟卵を想像させる非原形質の生命体であり、ある速度で進行する宇宙船にのみ現れる。精神感応能力を持っているらしいプロットに対し、なんとかコミュニケーションをとろうと試みた主人公は、やがて彼らの恐ろしい性質に気づくこととなった...。グロフ・コンクリンの宇宙恐怖物語に収録された作品。
Shore Leave(上陸許可)
クシレンたちは同質性を尊ぶ生物で、宇宙中の惑星を訪れては自らの形状を自在に変形させ、現地の生物と性行為を交わす。そして、多様性の兆しがあればヴィールスを感染させてその星の全生命を根絶させるのだ。さて、今回はわが地球を訪れたのだが...。まあ、お笑いショートショートみたいな一編だが、あんまりあちら方面の描写は期待しないように。何と言っても、彼らのサイズにみあった生物は蜘蛛やら蟷螂やらなので...。
Stawdust(ダミー)
ミス・アバーナシイは素敵な男性とのロマンティックな出会いを求めてシリウスへの宇宙旅行に出かけた。ところが、宇宙船の乗客はひとり、またひとりと子山羊の皮におが屑をつめこまれた人間のダミーへと変貌していく。これは、磁気を帯びた水素の雲の中で起こった奇妙な現象なのか、それとも...。
シュールで悪夢じみた物語のなかで、しかしミス・アバーナシイは状況に翻弄される受け身のヒロインにも、けなげに状況に立ち向かうヒロインにもなり得ない。そこに、より残酷で冷ややかな作者の眼差しが感じられる作品である。
Then Fly Our Greetings(さればわれらの挨拶を避け...)
軍の指令で科学者のカイルが研究していたのはある種の放射線だった。他の個体に対し増悪感をいだかせてお互いに闘わせるのが本来の目的だったのだが、実際にできあがったのはさらに強烈な相互的反撥を招くものだった。いかなる同族とも近くにいられない嫌悪感をいだかせ、無理をすれば脳が損傷してしまう。放射された三匹の猿は一匹が檻の中にとどまり、一匹は強化鋼の金網を破って檻から最も離れた研究所内の一室で発見され、残り一匹は研究所を脱走して行方知れずとなったのだ。カイルの懸念をよそに軍は軍事的目的でこの放射線を使用したのだが、過負荷により世界中に放射されてしまった。一切のリエゾンが排除された世界はどうなってしまうのだろうか。
Thirsty God(渇いた神)
金星にやってきたごろつきのブライアンは、陵辱して打ち捨てた緑の肌の娘メガスの一族に追われていた。彼が逃げ込んだのは聖域たる神殿。ここまでは敬虔な住民たちは入ってこれないという確信があったからだ。彼の読みは半分は正しく、後の半分は誤っていた。そこは聖なるために畏敬の念を持たれていたのではなく、火星人の残した精密で高度な科学工場としての敬意と畏怖をもたれる場所だったのだ。やがて眠りから目覚めたブライアンは肉体の変貌に気付いたのだが、彼を待ち受けていたのはさらなる残酷な運命だった。
The Wines of Earth(地球のワイン)
カリフォルニアのナパ峡谷でワインを醸造するジョー・ダ・バロラは老境に入ったやもめ暮らしの男。高級ワイン造りに没頭するジョーだったが、孤独な生活でもあった。彼のもとに訪れたのは四人の異星人の男女。彼らもワイン醸造家であり、ワイン研究のため宇宙中を巡っていたのだ。地球のワインの威信をかけて彼らを歓待するジョーだったが...。
ジョーの感情の機微が細やかに描かれ、寓話のように優しくもありえざる話にリアリズムが調和し、芳醇なワインのあとくちにも似た読後感が得られる名品。