作者紹介



 キャロル・エムシュウィラー(Carol Emshwiller)は1921年生まれの女流作家。少女期をミシガンのアン・アバーとフランスで交互に過ごす。'49にはミシガン大学の美術専攻で知り合ったエド・エムシュウィラー(高名なSFイラストレーター、後に抽象画や実験映画の世界に進出。キャロルとのコラボレーションも多い)と結婚し、卒業後はフルブライト奨学金を取得してエドと共にフランスへ遊学し、エコール・デ・ボザール(パリの美術学校)で学んだ。少女期の度重なる米仏間の転校のため、スペリングや文法上の混乱をきたし、カレッジでも英語については悲惨な成績だった。執筆活動に悲観的だったキャロルは、夫のエドを通してSFの世界に親しみ、同ジャンルでの小説を書き始めることとなった。これは第一子を授かった後で30歳を過ぎてからのことだった。(結局は三人の子持ちとなり、子育ての合間に執筆時間を捻り出すのは大変だったとのこと。)ミルフォードのSFワークショップでは最初期からの参加者であり、多くのものを学んだと述べている。'55のFuture誌に"This Thing Called Love"にてデビュー。多数の作品をF&SF誌やオービット等のSFアンソロジーに発表しているが、その作風はジャンルSFに止まらない。フェミニズムの領域での著作も多い。冬季はニューヨーク大学の生涯教育コースで教鞭をとっている。'91には短編集"The Start of the End of It All"がWorld Fantasy Awardを受賞した(リンクは翻訳家の宮脇孝雄さんによる秀逸なレビュウ@スペースアルク)。敬愛する作家はカフカ。
 以上は、キャロル自身のホームページでの記載を中心にまとめたものである。いろんな雑誌に発表した短編が短編集一冊分くらいは軽くあるわよっていう宣伝もあったが、特に'50年代にF&SF誌等に掲載されたSF作品が結構未収録のままになっているのはもったいない話だ。日本独自編集版とか出ないでしょうかねえ。
 さて、ここ数年(現在2006.7)のエムシュの活躍は目覚ましいものがある。2005年度の世界幻想文学大賞の生涯功労賞を受賞しているが(リンクは授賞式での写真@SFWA's news site)、生涯功労といっても、エムシュはばりばりの現役である。短編を中心に年何作かの新作を発表しており、2005年に出た短編集"I live with you"収録作はすべて2002年以降、すなわち80歳を越えて発表された作品ばかり13篇。また、アシモフ誌2006年1月号にも新作が発表されている。"The Mount"は2003年度のネビュラ賞にノミネートされ、P.K.ディック賞を受賞。短編"Creature"("ロージー"として邦訳あり)は2002年度のネビュラ賞受賞。短編集 "Report to the Men's Club"はP.K.ディック賞ノミネート。短編"I Live with You"では再び2005年度のネビュラ賞を受賞した。
 そして、ついに! 国書刊行会から新シリーズ「短編小説の愉楽」で本邦発のエムシュ短編集の出版が決定されたとのこと。近作を中心とした日本独自編集版となるようだ。
 (2013.8.12追記) エドとキャロルの詳細については、図版もたっぷり掲載されている「Emshwiller Infinity X Two: The Art and Life of Ed and Carol Emshwiller」を。版元のNonstop PressからはPDF版もDL購入できる。
 なお、上述の通り、国書刊行会から短編集「すべての終わりの始まり」(2007.5)が、河出書房新社から長編「カルメン・ドッグ」(2008.12)が、いずれも畔柳和代訳で出版された。2011年には「The Collected Stories of Carol Emshwiller, Vol. 1」が上梓され、1954-2002にかけてのなんと88短編が収録されている。本年末にはvol. 2も予定されているが、是非とも’50-60年代のSF雑誌に載ったっきりの作品をサルベージしていただきたいものだ。




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